今年も新型コロナウイルスの流行が続き、変異株で感染者が爆発的に増えた。原発事故から11年で、日本の原子力政策は大きな転換点を迎えた。世界では人類が再び月をめざす計画も始まり、環境分野では温暖化や生物多様性で画期的な合意もあった。科学分野の主なニュースで1年を振り返る。
原発推進へ政策転換
2011年の東京電力福島第一原発事故以降の原子力政策の方針が、大きく転換した。
8月末に岸田文雄首相が原発の新増設や運転期間延長などの検討を指示してから4カ月。12月22日に原発の新規建設などの方針をとりまとめた。原則40年、最長60年と定めている原発の運転期間は、停止期間を除外することで実質的に延ばす方針。原子力規制委員会も新しい安全規制のルールをまとめた。方針転換は、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で原油や天然ガスが高騰し、ガソリンや電気料金が高くなったことが背景にあるとされる。ただ、国民的な議論はほとんどないままだった。
事故が起きた際に誰が責任を負うのか、司法の重い判断も出た。7月、原発事故を起こした東電の旧経営陣に対し、株主代表訴訟で13兆円の支払いを命じる判決を東京地裁が言い渡した。6月には原発事故の被害者が国に損害賠償を求めた4件の集団訴訟で、最高裁は国の責任を認めない判決を言い渡した。
原発の根源的な問題も残る。使用済み核燃料の再処理工場は9月、26回目の延期が決まった。再処理で出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場は決まらないままだ。
核融合研究では米国が12月、レーザーを使って太陽内部と似た核融合反応を起こし、投入した以上のエネルギーを得たと発表した。(山野拓郎)
新型コロナウイルスが確認されて3年目の今年、変異株オミクロンが世界を席巻し、感染者が爆発的に増えた。デルタ株よりも重症化リスクは低いが感染力が極めて強く、国内で感染した2800万人超のうち9割超が今年の感染者だ。ワクチン効果もあり致死率は下がったが、今年だけで3万人以上が亡くなった。
流行するオミクロン株は系統が変わるたびに感染が拡大。現在はBA.5に次いでBQ.1が目立ち、置き換わりは現在進行形だ。
ワクチンは、ウイルスの変異を追いかける形で、従来の中国・武漢株に加えオミクロン株にも対応する「2価ワクチン」が出た。ただ従来株だけのワクチンも含めた接種率は世代間で開きがある。12月18日時点で、高齢者(3回終了)が9割なのに対して5~11歳(2回終了)が約22%、6カ月~4歳(同)が0・5%だ。
治療では、軽症者も使える飲み薬が相次いで登場した。重症化リスクのある人向けで、昨年末に米メルク社のラゲブリオ、今年2月に米ファイザー社のパキロピッドパックが承認。また、初の国産の飲み薬として、塩野義製薬(大阪市)が開発したゾコーバが11月に感染症流行時などに迅速に審査する制度で緊急承認された。重症化リスクの有無にかかわらず使え、発症3日以内に服用するとウイルスの増殖を妨げる作用があるとされるが、有効性の推定に対する慎重論もあり審査は時間を要した。半年程度、副作用などを追跡調査、公開する予定だ。
既に水際の緩和や渡航拡大が進むが、今後は、日常と隣り合う新型コロナとのつきあい方が焦点となる。季節性インフルエンザと同程度の扱いとする感染症法の位置づけ変更の議論が始まっている。(熊井洋美)
月へ再び 挑戦始動
人類が再び月をめざす米国主導の「アルテミス計画」が動き出した。第1弾として11月、新型ロケットSLSによって宇宙船オリオンが打ち上げられた。月を周回して翌月、地球に帰還した。2025年に女性飛行士初の月面着陸、30年代に火星の有人探査をめざす。月の近くに建設予定の宇宙ステーション「ゲートウェー」の運用に日本人飛行士が参加することも決まった。
月をめざす動きは民間でも活発化している。日本の宇宙ベンチャー「ispace(アイスペース)」が12月、民間初の月探査計画「HAKUTO―R」の月着陸船の打ち上げに成功。来年4月末ごろに月に到着予定だ。
一方、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月、固体燃料ロケット「イプシロン」6号機の打ち上げに失敗。機体の姿勢が崩れて安全な飛行ができないと判断し、「指令破壊」した。日本の主力ロケットでは03年の「H2A」6号機以来の失敗となった。
探査や観測によって、宇宙の謎を解く手がかりとなる成果も発表された。日本の探査機「はやぶさ2」が20年に地球に持ち帰った小惑星リュウグウの砂の分析が進み、生命に不可欠なアミノ酸が見つかった。
米航空宇宙局(NASA)の新型宇宙望遠鏡「ジェームズ・ウェッブ」による観測も開始。7月以降、130億年以上前の銀河などが鮮明に写しだされた画像が続々と公開された。(玉木祥子)
揺れる学術界
学術界が大きく揺れた年だった。日本学術会議の会員候補6人の「任命拒否問題」をきっかけとした学術会議のあり方をめぐり、政府が12月に改革案を公表。会議側は独立性を損ねかねないと懸念を表明したが、政府は年明けに改正法案を国会に提出する方針だ。
研究現場に大きく影響する新たな制度も導入された。政府が10兆円規模の大学ファンドを設立し、運用益を「国際卓越研究大学」に助成する制度は、5月に関連法が成立、12月に公募を開始した。数大学に年間数百億円を支援し、研究力の向上に役立てるが、選ばれるには自ら「稼げる大学」になる必要がある。
経済安全保障推進法が5月に成立し、官民協力による先端技術開発プロジェクトの募集が12月に始まった。人工知能や量子など、民生にも軍事にも使えるデュアルユースと呼ばれる技術が対象で、研究の自由との両立が課題だ。(嘉幡久敬)
相次いだ気候災害 「1.5度」対策足踏み
欧州の熱波やパキスタンでの洪水など気候災害が相次いだ。11月の国連気候変動会議(COP27)では、温暖化で「損失と被害」を受けた途上国を支援する新たな基金の設立で合意。エネルギー危機が高まる中、昨年のCOP26で事実上の世界目標となった「1・5度目標」を維持したが、温室効果ガスの排出削減対策では前進がなかった。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は4月、1・5度目標達成には、2025年までに排出を減少に転じさせる必要があるとする報告書を出した。
12月の国連生物多様性会議(COP15)で、生物多様性の回復に向けた30年までの新たな国際目標を採択した。地球の30%以上の保全を目指す「30by30」など23項目を盛り込み、20年までの「愛知目標」に比べ数値目標が増加。国際基金内に新たな仕組みを検討し、環境保全に向けた資金支援を行う。(矢田文、関根慎一)
「mpox(サル痘)」の患者が欧米を中心に拡大した。世界保健機関(WHO)は7月、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言した。
日本では、8月、厚生労働省が、2021年の結核患者数が10万人あたり10人を切り、初めて「低蔓延(まんえん)国」の基準に達したと発表した。(後藤一也)
トンガで大噴火 日本にも「気象津波」
1月15日、南太平洋・トンガ諸島の海底火山「フンガトンガ・フンガハーパイ」が大規模噴火した。トンガ政府によると津波は最大15メートルに達した。津波と火山灰によって国民の約84%(約9万人)に被害が出たと推定されるという。約8千キロ離れた日本でも、噴火の時に空気がふるえる「空振」の波が、海を伝わる波と相互作用したことによって、潮位変化が観測された。「気象津波」と呼ばれ、海外の火山噴火によって観測されたのは初めて。
気象庁は7月、防災上のわかりやすさを重視して「津波」と呼び、国内で観測した場合は基準未満でも注意報を発表することを決めた。(佐々木凌)
日本医学会の委員会は2月、胎児の染色体疾患を調べる出生前検査の新しい指針を発表した。検査ができる医療機関の新しい認証制度が始まった。また、これまでは検査の存在を妊婦に積極的に伝えなかったが、検査について情報提供するようになった。(後藤一也)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル